吃音コラム
今月より毎月吃音に関するコラムを掲載していきます。執筆は当クリニックスタッフの
矢田が担当いたしますのでよろしくお願い致します。私は昨年2月に言語聴覚士の免許を取得し、今年4月より首都大学東京人文科学研究科に進学予定で、私自身が吃音者ということもあり、早坂先生のもと吃音について勉強中です。一人でも多くの方のお役に立てるコラムを書いていきたいと思いますのでどうぞよろしくお願い致します。
掲載内容は以下のように予定しています。
⑴吃音の基礎知識
⑵幼児期の吃音と両親①
⑶幼児期の吃音と両親②
⑷学童期~思春期の吃音
⑸吃音のカミングアウトについて
⑹成人期の吃音
⑺吃音と障がい者手帳
⑻吃音者の就職活動
⑼吃音の原因論
⑽吃音の脳科学
⑾吃音の心理的側面と性格傾向
⑿吃音といかに向き合うか
さて、第一回は“吃音の基礎知識”をテーマに、吃音の基本的なことをお伝えしたいと思います。
1.吃音とは
吃音を一言で説明することは難しいですが、WHOでは「話者は、自分が何を言いたいか知っているが、不随意に生じる繰り返し、引き伸ばし、発生の停止のために言うことができないような発話のリズム障害」と定義されており、またDSM-IVでは「正常な会話の流暢さと時間的構成の困難があり、学業的または職業的成績、または対人意志的伝達を妨害している」と定義されています。この2つから言えることは、吃音とは①発話の流暢性の障害である②発話の非流暢さのために学業や職業、日常生活において不利益を被る ものであるということだと思います。私個人としては後者が非常に重要であると考えているのですが(後日掲載します)。
吃音には大きく分けて、幼児期に明らかな原因なしに発症する“発達性吃音”と青年期・成人期に発症する“獲得性吃音”があり、主に吃音といわれているものは前者の発達性吃音です。後者の獲得性吃音は、脳血管障害や頭部外傷などが原因となる神経原性吃音と、心理社会的原因があり発症する心因性吃音に分類されます。
2.発達性吃音についての事実
発達性吃音を含め、吃音症はその原因や治療法について様々な見解があり、決定的なものは未だ確立されていません。しかし、世界中の様々な研究により吃音症について様々な事実が明らかとなっています。今回はその一部をご紹介します。
⑴有症率と発症率
吃音の有症率及び発症率については国や地域ごとに多少の違いはあるものの、発症率は
約5%(Andrews1983,Mansson2000)、有病率は学齢児の1%程度(Bloodstein1995)
とされています。
⑵発症時期と男女比
発達性吃音は基本的に2歳から4歳に発吃することが多く(95%が4歳まで Yairi)、ほとんどが7歳未満で発吃する。
⑶自然治癒
発達性吃音は発症後その7割程度が自然治癒するとされています(Yairi&Ambrose1991,
Bloodstein1995,Kloth1999,Mansson2000)。
⑷吃音と合併症
吃音児の約6割は何らかの合併症を持っているとされており(Blood2003)、なかでも
構音障害の合併率が高い(33-45%)と言われており、これは非吃音児の約2.5倍です。
そのほか、ADHDやPDDの合併も多く報告されています。
⑸吃音の原因
吃音の原因については世界中で様々な研究が行われてきましたが、未だ結論は出ていません。吃音の原因論については第9回にて詳しく書いていきますが、今回は現在までに報告されている原因論を簡単にご紹介します。
①遺伝研究
遺伝研究は1960年代頃から行われ、家系調査(Yairi1997)やDNAの分析(Cox&Yairi)により、吃音は遺伝の影響を受け、持続する吃音には染色体13番、発吃には2番と9番、
女性には21番が関与することが示唆されています。
②脳・神経生理学の研究
1920年代は利き手研究から大脳半球優位説が提唱され、吃音に左利きや両利きが多いとされていました。しかしこれは近年の研究で、吃音者と非吃音者で利き手に有意な差はないとされています。1930年代からは脳波の研究や近年では脳画像による研究が盛んに行われるようになり、国内の研究では近赤外分光法を使用して脳の側性化の検討が行われ、吃音児者は側性化がはっきりしないことが示唆されました(佐藤・森2004)。
③発達的・環境的・学習的要因
発達及び環境の要因については、吃音は正常な非流暢性を親が吃音と考え、そのように対応したために起こったとする“診断起因説(W.Johnson 1940)”や、子どもの能力と自ら課したあるいは外から求められたスピーチの要求の不釣り合いで発吃し、進展するとする“D-Cモデル(要求能力モデル)(Starkweather&Gottwald&Halfond 1990)”などが提唱されてきたが、近年は〝原因は一つではなく、複数の要因が重複、影響しあって生起し進展する〟とする“CALMS Model(Healey 2003)”が主流となっています。
以上、吃音の基本的な知識についてまとめてみました。吃音の治療や原因論の詳細等については機会を改めて掲載したいと思います。質問・疑問等ございましたら当クリニックまでお問い合わせください。
【参考文献】
・エビデンスに基づいた吃音支援入門 菊池良和著 学苑社2012
・北里大学医療衛生学部講義資料 原由紀
・吃音 アドバンスシリーズ コミュニケーション障害の臨床2 協同医書出版2001
・吃音の基礎と臨床 -統合的アプローチ- バリーギター著 長澤泰子監訳 学苑社2007