吃音コラム
1ヶ月ぶり、第2回目のコラムとなりました。今月と来月は幼児期の吃音をテーマに、
今月は幼児期吃音の特徴、来月は幼児期吃音の治療と実際、さらに吃音児のご両親について書いていきたいと思います。
【はじめに】
発達性吃音のほとんどは2歳〜4歳でその症状が現れやすく、当クリニックにもお子さんの発話が気になり相談にいらっしゃる親御さんが多くいらっしゃいます。幼児期は言語発達、つまりことばの成長が著しい時期であり、親御さんが自分のお子さんのことばに最も敏感になる時期であると言えます。幼児期の吃音は思春期や成人以降の吃音とは異なる多くの特徴があること、また症例数が多いことから世界中で様々な研究がなされており、多くのことが明らかとなっています。まずは現在明らかになっている幼児期の吃音の特徴について整理し、そのようなお子さんに対し専門家がどのように介入するか、また両親をはじめとした周囲の人たちがどのように関わっていくことが望ましいのか、今月と来月にわたって考えていきます。
【幼児期吃音の特徴】
1.発症時期と非吃音児の非流暢性
前述の通り、ほとんどの吃音が2歳から4歳の幼児期に発症し、その割合は95%にのぼるとされています(Yairi 2005)。また、この時期はどのお子さんも言語発達の著しい時期であり言語能力は不安定、さらに発話に必要な運動のコントロール機能も発達途上にあることから、非吃音児の発話にも“語全体の繰り返し” “「えーっと」の挿入” “言い直し”などの非流暢性がみられることが知られています。運動コントロール機能が成人と同様に完成されるのは9歳から11歳ごろであり(Smithら 1997 大橋 1998)、この時期までは成人と同様な発話ができなくても、それは発達上自然なことでもあると言えます。
2.言語発達
幼児期は言語能力(語彙、構文、音韻操作能力、語用能力など)が発達途上にあり、発話の非流暢性が言語習得段階と関連し、2歳から4歳で使用する文構造及び文の長さと密接に関連すると言われています(伊藤 1983,1985,1994)。特に文構造の複雑さと文の長さが非流暢性に影響するとする報告は数多くみられます(Ratner1987、Longman1995,1997、Bernstein1997 など)。また、音韻障害(注1)や構音障害(注2)を併せ持つ子が多いとされ、その割合は吃音児の32-45%であり(Arndt 2001)非吃音児の約2.5倍であるという報告があります(Andrews 1964)。
3.吃音の自覚
幼児期は自身の吃音に対する自覚はあまり進んでいない場合が多く、症状に対する回避行動や工夫、情緒的反応は少ないとされており、一方で非吃音児が他者の非流暢性を意識するのは5歳ごろと言われています(Ruth&Yairi 2001)。また、「音節の繰り返し」に関してメタ言語知識をもつもの(違いに気づく、理由を言語化する)は3から4歳で15-30%、5歳で80%、6歳で100%とされています(伊藤 2001)。
4.自然治癒
自然治癒については様々な見解がありその割合には振れ幅がありますが、治療なしに 少なくとも50%は改善するとされています。自然治癒に影響を与える要員としては家族歴とその人が自然治癒したか否か、性差、他の発達障害の合併の有無、発吃からの長さ、発吃年齢などが考えられます。
以上、幼児期の吃音について整理してみました。初語から語彙がどんどん増加し、単語だけでなく2語文、3語文とどんどん表出の量も質も発達していく幼児期は、吃音児・非吃音児関係なく言語表出が不安定な時期と言えます。実際、非吃音児でも言語発達の過程で吃症状を示す時期がみられることがあります。そのため幼児期の吃症状をその後も持続する吃音の症状なのか、言語発達の過程の一時的なものなのかを鑑別することは専門家にとっても非常に難しいことです。しかし大事なことはどちらの場合についても専門家が介入し、その子をより良い言語環境で育てていくことであると私は考えています。実際、早期介入が有効であるとする研究もあり(Gottwald 1999、Onslow 2001)、 いずれの場合でも適切な介入がその後の言語発達に良い影響を与えるのではないでしょうか。
次回は幼児期の吃音に対するアプローチ方法、また吃音児のご両親について当クリニックにいらっしゃるクライアント様の実際を含めてご紹介したいと思います。今回の記事についてご意見・ご質問等ありましたらクリニック問い合わせよりお願いいたします。
【参考文献】
・エビデンスに基づいた吃音支援入門 菊池良和著 学苑社2012
・北里大学医療衛生学部講義資料 原由紀
・吃音 アドバンスシリーズ コミュニケーション障害の臨床2 協同医書出版2001
・吃音の基礎と臨床 -統合的アプローチ- バリーギター著 長澤泰子監訳 学苑社2007