吃音コラム
吃音コラムも5回目となりました。今回は学齢期(小学生)を中心に、またその後の思春期の吃音について考えていきたいと思います。
現在日本には多くの公立小学校には“ことばの教室”が設置されており、ことばの教室の対象児の約10%が吃音児であるという報告もあります(1997.2001 長澤の調査,特殊教育学会)。一方で、自分のクラスの担任に吃音のことを相談したことがあるという小学生は16%で(小林2003)、自身の吃音に悩みながらも学校側には相談できていないケースが少なくないといえます。
学齢期の吃音の症状は個人差が大きく、自覚の程度も様々であるとされています。吃音の進展段階は第2層から第3層で、症状の変動性が減り、常に症状が現れている状態になります。私自身は小学校低学年のころはどもっていたような記憶はありますがあまり困った経験はなく、一方で高学年になってからはっきりと自覚し悩み始めました。小学校に入学するとそれまでとは生活環境が大きく変わり、友達とのやりとりや授業での音読、発表など吃音に対する自覚と、自身の発話に対するマイナスイメージを抱きやすい時期ではないかと思います。
【学童期の吃音臨床】
では、実際にこの時期の吃音に対してはどのような介入が行われるのかという点ですが、まず医療機関においては幼児期とは異なり、直接発話症状にアプローチをする直接法が多く用いられます。幼児期同様に家庭や学校といった生活環境に対する介入(環境調整)も行われますが、症状が固定化しつつあるこの時期は症状全体を評価した上で言語療法が実施されます。
【評価について】
吃音の検査・評価については現在「吃音検査法」が多くの機関で使用されており、STまたはことばの教室の先生により評価が行われます。評価時には発話症状だけではなく、随伴症状はもちろん、その子どもの生活環境を踏まえて、その子を理解することが重要であるとされています。また、吃音児は他の問題(構音障害、発達障害など)も抱えているケースがあるため、考慮する必要があります。
【訓練について】
前述のとおり、この時期の介入は直説法、つまり言語訓練が行われることが多いです。この直説法には“発話速度のコントロール”“軟起声”“軽い構音器官の接触”などがあり、これらの訓練効果のエビデンスは徐々に増えてきています(Craig et ai.1996,Hancock et al.1998,見上.2011 など)。さらにこの時期は初めて自身の吃音を自覚し始める時期でもあり、子ども自身の吃音に対する疑問を解消すること、また正しい知識を教えてあげることも必要となるかもしれません。私自身は自分がなぜこんな話し方なのか、どうして自分だけなのか、と思い悩んだ時期もありました。そんなときに大人がきちんと説明してくれ、またセルフヘルプグループなどを通して同年代の吃音者と交流することができたら、もう少し前向きになることができていたかもしれません。
この時期の評価、訓練の重要なポイントの1つに、この時期の吃音にはさまざまなタイプが存在するということがあげられます。まず、吃音だけなのか、吃音以外に問題を抱えているのかという2群。そして吃音だけの場合でも『よくどもり、本人は気にしている』『あまりどもらなが本人は気にしている』『よくどもるが本人は気にしていない(周囲は気にしている)』『あまりどもらず、本人も気にしていない(周囲は気にしている)』『あまりどもらず、本人も気にしていない(周囲も気にしていない)』というように、症状・本人の認知・周囲の認知という3つの要因からさまざまな場合が想定されます。症状が重い場合には当然直接的なアプローチが重要になってきますが、症状が軽い一方で本人がひどく気にしている場合には、受け取り方へのアプローチが必要になってくるでしょう。
【教育現場との連携】
学童期及び思春期の吃音を考える上では、吃音児・者が1日の大半の時間を過ごす学校との連携が必要不可欠となります。言語聴覚士が直接教育現場に介入することは日本ではまだ難しいというのが現状のようですが、欧米諸国では多くのSTが教育現場で働いているようです。日本もそのように一日もはやくなって欲しいですが、いまは小学校ではことばの教室の先生方の吃音に対するスキルアップ、また教師の方々への吃音の理解の啓発が現実的に行われるべき、そして行われつつあるSTと教育現場の連携ではないでしょうか。
【中高生の吃音】
最後に中高生の吃音について考えていきたいと思います。このテーマは私自身が将来の研究および臨床の課題にしたいものでもあります。前述のとおり、現在日本では学童についてはことばの教室、就学前のお子さんについては多くの療育機関において吃音児の受け入れが行われています。しかし、小学校を卒業し中学校へ入学するとその受け皿がほとんどなくなってしまう、というのが現状です。成人を対象に訓練を行っている医療機関は数は少ないですが存在します。しかし多くは大学病院であり、中高生が受診をするには多くの場合学校を休んで平日に行かなければなりません。訓練は定期的に行う必要があり、学業や部活、遊びなどに忙しい中高生には厳しい環境にあるといえると思います。ですがこの時期は思春期にあたり、誰もが悩みを抱えたり不安定になったりする時期で、ハンディを抱えた吃音者の場合はなお更だと言えます。私自身も一番吃音に悩み苦しんだのは中学生のころで、同時に吃音の勉強をしていくと決めた時期でもあります。幸いなことに私は高校進学後は環境に恵まれ悩むことはほとんどなくなりましたが、多感な時期である中高生に対する広い受け皿が必要であると思います。症状を軽減するための訓練を行うことももちろん必要ですし吃音者の多くが望むことでもあると思いますが、この思春期という難しい時期にある吃音者には、まず吃音の話を遠慮なくできる相手や場所が必要なのではないでしょうか。
当クリニックをはじめ、今後多くの機関が中高生の吃音者の受け皿となることを切に願ってやみません。
早坂吃音・コミュニケーションオフィス 事務局員
言語聴覚士 矢田康人